神戸大学大学院医学研究科の内匠 透教授 (理化学研究所脳神経科学研究センターチームリーダー) 、フランスニューロスピンの釣木澤 朋和研究員、メルボルン大学らの国際共同研究グループは、無麻酔マウスのfMRI※1を用いて自閉症モデルマウスの脳機能異常の可視化に成功しました。今後、ヒトの臨床データとの直接比較検討が可能になります。

この研究成果は、2月5日 (現地時間) に、米国科学誌 Science Advances に掲載されました。

ポイント

  • マウス無麻酔fMRI法を確立し、自閉症モデルマウス (15q dup) での神経回路を健常マウスと比較した。
  • 15q dupマウスでは他者認識にかかわる嗅覚系回路に異常が生じていた。
  • 15q dupマウスでは領域間の機能的結合 (functional connectivity)※2が全体的に低くなっていた。
  • 15q dupマウスでは領域間の解剖学的結合も低くなっており、機能的結合との相関が認められた。
  • D-cycloserine投与により、社会行動異常や他者認識にかかわる嗅覚系回路の異常、機能的低結合性が改善された。

研究の背景

自閉スペクトラム症 (自閉症) は、社会的相互作用やコミュニケーションの欠如、活動?行動?興味の限局?繰り返しを特徴とする発達障害です。患者数は指数関数的に増加しているにも関わらず、的確な治療法は確立されておらず、その病態解明は少子化に悩む我が国にとって喫緊の課題です。自閉症のヒト遺伝学および動物モデルの研究は急速に進歩しており、自閉症動物モデルによる病態メカニズム解明が期待されています。自閉症の原因としてコピー数多型※3とよばれるゲノム異常が知られていますが、15q dupマウスは世界で最初のコピー数多型によるヒト型自閉症モデルマウスとして確立されました。本モデルマウスは社会性行動、シナプス、セロトニン等の異常を示すことがわかっていましたが、脳全体の機能的結合に関してはこれまで詳細に調べられておりませんでした。

全脳での脳機能計測を可能にする技法として、機能的MRI (functional MRI, fMRI) が挙げられます。しかし現在、マウスfMRIは主に麻酔下で行われています。麻酔はfMRIの信